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村西とおるコラム
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2006年10月18日
イレズミ男
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 留置所暮し、が忙しかった時代のことでございます。



 それまで随分一人であった私の房に、一人の男が入室してまいりました。


 頭にパンチパーマをかけ年の頃は30後半顔は「真犯人に間違い無し」を絵に描いたような悪党ヅラでございます。


 また男の顔の右眉から頬にかけて15センチほどの刃物で切られたような傷跡がザックリと見えてございました。


 加えて男の全身には手首足首まで、イレズミが隈無く彫られてあったのでございます。


 この悪党、どんな罪を犯してきたのか。出入りで敵の組員5人は惨殺してきたのか、それともその場に居合わせた女子供も一緒に全員皆殺しにしてきたかも、手負いのライオンと同室となった気分となって、いつにない高揚を覚えた私でございました。



 が、男の犯した罪は予想に反して「暴力行為」という軽いものでした。それも内縁の妻に「暴力」を働いた、というチンケなものでございます。


 ビデオで百本は主演を張れそうなぐらい惚れボレする悪漢ヅラのクセに、女房に対するDVで逮捕されるとはなんとも面目の立たないことよ、の当方のさげすみを察知したのか、男は赤く染めながら「エン罪だ」と叫んだのでございました。


 「俺はこう見えてもヤクザでも組員でもないカタギの大工だ。顔の傷は子供の頃自転車で転んだときに出来たもの、それを警察は出入りの傷と誤解している。イレズミだってトビ職だったジイさんに憧れて彫ったもの、俺は歴としたイレズミ愛好会の会員なんだ、なのにヤクザの証拠と決めつけている。どこにでもある夫婦ゲンカをして女房のツラを張ったら運悪く口唇が切れて血が出ただけ、それをこんなところに入れやがった。イレズミ愛好会に対する差別はやめろ」


 男はこの「イレズミ愛好会に対する差別はやめろ」のフレーズを延々と叫び続けたのでございました。



 その効果あってのことでしょうか、男は拘置期限の10日間が過ぎて処分保留となり、釈放されました。


 男が出て行って10日程経った深夜「イレズミ愛好会に対する差別だ」の聞き覚えのある大きな声に目を覚ますと、男が再び私の房に放り込まれて来たのでございます。


 男によれば今度は内縁の女房殿のアバラを数本折った、とのこと。


 しかし男は前回と同じく「どこにでもある夫婦ゲンカをしただけだ、それをまたこんな所に入れるなんてイレズミ愛好会への差別だ」と吠えるのでした。



 北の将軍様を思うとき、いつもあの「差別だ」男の顔が頭をよぎる私でございます。




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