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村西とおるコラム
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2007年8月9日
朝青龍
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 横綱、朝青龍と息子が一緒に並んで映った写真が、息子の室に飾ってあります。畳半畳分程の大きさに引き延ばした写真です。息子が小五のとき、ホテルで開催された朝青龍の優勝祝賀会に行った時に撮りました。紋付袴姿の正装で息子の肩に片手を置いて微笑んでいます。息子は緊張した顔をしてカメラを睨んでいます。息子がカメラを睨んでいるのには理由があります。カメラを構えている私に苛立って睨んでいるのです。


 この時、何度押してもカメラのシャッターが切れず私はパニックになっていました。横綱と一緒の息子の一世一代の晴れ舞台の写真でございます。なのにあろうことか、カメラのシャッターが切れないのです。必死になってシャッターを押すのですがどうにも切れません。15秒が経ち20秒が過ぎました。それでもシャッターが切れないのです。汗が額から飛び出て来ました。周囲の関係者からも「どうした、早く撮れよ」の声がかかりました。絶望、という二文字が頭に浮かびました。


 「パパ!!」と息子の叫ぶ声が聴こえました。その声に呼応するかのように、シャッターが突然「カシャ」と切れました。命拾いをした、大げさな云い方かもしれません。が、息子を持たれていられる親父であれば共感いただけると思います。息子に対する親父のプライド、とは時には命賭けとなることがあるのでございます。たかが写真と笑う勿れ、心底あの時、命拾いをした、と思ったのでございます。この間、横綱は嫌な顔を決して見せることなく、微笑を絶やさずカメラの方を見つめ続けてくれていました。


 当代一の人気者のことでございます。周囲にも記念写真の順番待ちの人達が大勢いました。間抜けた親父のカメラの前に、微笑を絶やさず30秒の間立ち続ける芸当は、そう易々と出来るものではありません。横綱の大きさ、に助けられて父親としての面目を保つことが出来た私はその夜以来、横綱ファンになりました。


 その後八百長疑惑報道などがありましたが、横綱に対する気持ちは変わりませんでした。健さんがホモだ、と知った後も健さんに対する熱い心が変わることがなかったのと同じことでございます。ましてや横綱には、親父としての面目を保つことが出来た、との一宿一飯の恩義があります。息子に改まって聞いたことはありませんが、自分の室に飾ってある大きな横綱と一緒の写真は、息子にとっては「希望」「夢」ときには「勇気」であったように思います。横綱がこのままで終わることなく、彼が夢や希望や未来であるモンゴルや日本の少年の為にも必ず再起され、大草原を疾駆する青の龍の伝説、の第二幕を華麗に舞い見せてくれることを願うものであります。


 伝説とは、大いなる挫折、があって初めて成就するものなのでございますから。




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