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村西とおるコラム
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2007年8月20日
アーチスト
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 自らをアーチスト、と称する歌手がおります。アーチストとは芸術家、の意味でございます。芸術家、とは決して自ら名乗るものではなく、他人がその才能に対して評価し与える「尊称」でございます。であるのにもかかわらず、臆面もなく自らを「アーチスト」と名乗ってはばからない歌手がいるのでございます。


 大衆芸能の星である歌手は、決して自らを卑下することはないのでございますが「アーチスト」とは、はばかり過ぎというものでございます。自らをアーチスト、と称する歌い手は総じて若手に多いように見うけられます。彼等の特徴は、その歌う詩や曲を自らが手がける、ところにございます。メロディーは好き嫌いの範疇でございますので論評は差し控えるのですが、その詞は拙過ぎて酷過ぎ、でございます。その最大の欠陥は「私、あなた、僕、きみ」のオンパレードであることに尽きます。「私、あなた、僕、きみ」の羅列で愛や人生を歌えると考えているとは、とんだアーチストでございます。エロティズムが「クリトリス」や「チン○」の言葉の連呼のみで表現しえないと同じように、男の女の愛や人生もまた「私、あなた、僕、きみ」をエンドレスで熱唱してみても、何も伝わらないし、表現しえないのでございます。歌を「私、あなた、僕、きみ」の言葉をリピートして歌い上がれば上げる程、情景は私的空間に埋没し、共感の思いは途切れ、情念は飛翔することなく一人よがりの世界で完結するのでございます。


 阿久悠はその詞をもって「時代の飢餓を埋める」と云いました。どうぞアーチストを自称される歌い手の皆様、一度是非「私、あなた、僕、きみ」の言葉を封印なされて、自然や時代のなかからその詞を紡ぐことをなさって下さい。


 先達は美しい大自然のうつろいと季節の香りに感応して素晴らしい「恋の歌」を歌い上げております。「やはらかに積もれよ雪に熱る頬を、埋ずむるごとき恋してみたし」砂山の砂、でも愛が奏でられております。「砂山の砂に腹這い初恋の、いたみを遠くおもい出づる日」空間も言葉のツブテで斬り裂かれております「死にたくないかと言えばこれ見よと、咽喉の疵を見せし女かな」(啄木)


 北島三郎が数十頭の競走馬の馬主となり、八代亜紀が豪邸のビルと別荘を披露するとなって、おとうさんから「歌」が失われました。でもおとうさんは、召されて星降る道を往くとき、お気に入りの歌を口ずさんで行きたいものだ、と思っております。




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